懺悔の小部屋〜10号室〜  

罪深い仔羊達よ!悔い改めよ!〜


落とし込み部所属・くわぞーさんの懺悔

釣行日 2002年6月19日(水)
時間 10:30〜17:00
場所 大磯港
釣法 イガイ(稚貝)餌による前打ち釣り
釣果 クロダイ42cm〜52cm 計7尾


梅雨入りしたての6月のとある日でございます。大磯の宿場町、そこからほど近い漁港の堤防に釣り装束の男二人の姿が見られました。何やら顔を突き合わせ話こんでいるようであります。
おやおや、このお二人よく見ますと、様々な名裁きで名高いお奉行様と、かさご一家のくわぞー親分ではありませんか。
はてさて、お二人、どのような話をしていて、なにをやらかそうとしているのやら・・・
そっと隠れて覗いてみることにしましょう



お奉行様 黒鯛釣りに行く


『くわぞー、久しぶりじゃのう。どうじゃ、その後如何様に過ごしておった、ん?』

『へい、お奉行様、先だってのお奉行様の暖かいお裁きのおかげで、八丈に送られることもなく、追浜村でかさご漁に精を出す毎日でございまして、お蔭様で、ほれ、この通りぴんぴんでございやす』

『ふむ、その方の度重なる密漁に関する裁き、奉行も関係諸方面からチクリチクリと責められてのぅ・・・何故八丈送りにしなかった、であるとか、かさご一家のくわぞーと奉行は何らかの繋がりがあるのではないか、とかのぅ』

『いやはや、お奉行様、まっことすまんこって!その節はすっかり世話になってしまいやした。まぁ、その恩返しっちゃ何ですが、今日はお約束どおりこうやって黒鯛釣りにお供したわけでして・・・』

『そうよのう、くわぞー。奉行はその方の黒鯛密漁の調べ、ならびに裁きを通して黒鯛釣りというものが妙に心のどこかに引っ掛かっておってのう・・・今後の裁きのためにも一度はやっておかなくてはなるまいと思うてのぉ』

『へいへい、そうこなくっちゃ!ってなもんですわ』

『これ、くわぞー。口を慎しまぬか。これはあくまで奉行の今後の裁きの足しにするための下調べじゃ。決して釣りをして楽しもうとか、そういった類のものではないぞよ』

『へいへい!お奉行様、そりゃもう、合点承知しておりやす。ふぇっへへ・・・さっ、仕度にかかりましょう、お奉行様。お道具はお持ちになられましたか』

『ふむ、よかろう。ほれ、これが道具じゃ仕度にかかれい!』

『????』

『どうしたのじゃ?仕度にかからぬか』

『・・・お奉行様、釣りの仕度は釣り人自らするもんでございやす。他人にやらせるもんではございやせん。』

『ほう、ほう、そうであるか。ならば言おう、くわぞー。奉行は釣りをしに来たのではない!裁きの下調べに来たのじゃ。しかるに奉行自ら仕度をする道理はどこにない。どうじゃ、くわぞー。奉行の言う事のどこにも間違いはあるまい、ん?どうじゃ、そうであろう、くわぞー』

『へい、まったくもってその通りで・・・(ったく、何が 『間違いはない』 だ?んな道理、奉行所のお裁きの場で言おうもんなら獄門打ち首もんだぜ・・・)』

『くわぞー、奉行は昨晩、家内に耳あかの掃除をしてもらってのぅ、他人の言う事が、どんな小さな声でもよく聞こえるぞよ。』

『(ギクッ)あ、あっしは何も言っておりやせんですますだす、はい』

『しどろもどろじゃな、くわぞー』

『あいや、すまぬこって・・・。 それにしてもお奉行様、奥方様にお耳の掃除をしていただけるんでやんすか?当然膝枕とかしてもらうんでしょうねぇ、うらやましいこって・・』

『むふ、そうであるなぁ、奉行がこう、家内の膝枕に頭を預けていると、少しばかり家内の着物の前が乱れての、そこに奉行の手がすりっとすべりこんで、家内が「あぁ、いけませぬ・・」とか言って、それで奉行は「よいではないか」などといって、こう、さらに手を・・・   こっ、こりゃ!くわぞー!何を言わす!』

『あっしは何も・・・お奉行様が勝手に・・・』

『まぁよい。以後慎め。よいな』

『へい・・まぁ・・・(どっちが慎むんだよ、ったく・・・)』

『それにしてもくわぞー、今日の相模の海はずいぶんと荒れておるのう』

『へい、ゆんべの雨風でうねりが残っておりますですなぁ』

『海の色も濁っておるではないか』

『へい、ゆんべの雨で花水川の濁りが入ったのと、うねりでてとら廻りがかき回され、丁度よい具合に濁ってますなぁ』

『ん、今なんと申した?てと・・なんとかと・・』

『へい、てとら、でございますね』

『何なのじゃ?その「てとら」とかいうものは』

『なんでも南蛮渡来の言葉とかで、釣り人の間ではよく使われておりますなぁ』

『たっ、たわけが!!何故そのような南蛮言葉を使うのじゃ!きちんとした大和言葉を使わぬか!』

『では、どのように言えばいいんでやんすかねぇ』

『決まっておるではないか!金平糖状消波石塊群じゃ!』

『へ?こんぺいとうじょうしょう・・・なんですって?』

『ええい、わからぬ奴よのう!金平糖状消波石塊群じゃ!』

『はぁ、こんぺいとうじょう しょうは せっかいぐん・・・でございますか』

『ちゃんと言えるではないか。以後きちんと正しい大和言葉を使うであるぞ』

『へい。(いやはや、なんとも・・・・あとで困った事にならなきゃいいがなぁ)』

『ところで、くわぞー、このような波っ気と濁りでは魚なぞ釣れまい』

『あーにをおっしゃいますやら、お奉行さん!黒鯛釣りにはこの条件でさぁ。この状況を狙って今日わざわざこうしてお奉行さんをお誘いして来たんでやんすから』

『くわぞー、その「お奉行さん」はないであろう、「お奉行さん」は。先の調べの場でもその方、そのような事を言って奉行を怒らせたではないか。ここ大磯からでも八丈行きの船は出せるぞよ。その方、まだそのように分をわきまえないようであれば、こうして両の手をぱんぱんとするだけで、控えの者がすぐに八丈行きの船を・・・ん、両の手をこうしてぱんぱんと・・・、ぱんぱんと・・・・????』

『お奉行様、お座敷じゃないんでやんすから・・・ここは海でやんすから・・』



そうこうしているうちに、くわぞー親分の手により、釣り・・あ、いやいや、“お裁きのための下調べのための黒鯛釣りのようなもの” の準備が整ったようでございます。どうやら、いよいよお奉行様が相模の海に向かい、第一投となるようですが、その前にここで、この度お奉行様が持ち込んだお道具立てを見ることにしましょう。

なんでもお奉行様、先のくわぞー親分のお裁きの場で親分から聞き出した大磯用の道具を、お裁きの覚書きから引き出し準備したようであります。
まずは竿でございます。
これは『だいわ屋』の党名面徒  江須江久須 前打ち 超硬  十八尺〜二十一尺の自在長のようでございます。
そして糸巻きでございますが、これは『富士屋』太鼓型糸巻き二十五番を、糸については『りょうび屋』の落とし込み糸三番を、この糸につなぐ針結び透け糸は、二番半を、そして針については軸の太い『がまかつ屋 伊勢尼十一番』を揃えたようでございます。
あっ、そうそう、針に打つ錘については、散弾鉄砲の弾、三びぃーとかいう重いもののようです。さらにこの日はうねりが強く仕掛けが落ち着かないとかで、くわぞー親分、針結び透け糸の半ばあたりに散弾鉄砲の弾、二びぃーも打ってあげたようでございます。
まぁ、なんとも太仕掛けといいますか、繊細な黒鯛釣りにこだわる落としこみ釣り師からみたら、さぞやおかしな道具立てといわれそうではありますが、まぁ、その土地、その釣り場の道具立てがあるようですので、これはこれでよいのでしょう。

おっ、始まったようですよ。それではまた隠れて覗いてみる事にしましょう。




『くわぞー、それでは始めるぞ。まずどのようにすればよいのじゃ?竿を持って、振りかぶって投げるのか?』

『いやいや、お奉行様それは投げ釣りでございましょう。今日お奉行様がおやりになるのは“前打ち”釣りでございますよ』

『前打ち釣りとな?』

『へい、その通りで・・・』

『それでななにか、この竿で前のほうを打つのだな、め〜ん!とか、どぉ〜!とか、こて〜ぇ!とか言って、このように、ほれっ、それっ・・・う〜む、どうもぶにゅんぶにゅんして竹刀のようにびしっと決まらぬぞ』

『・・・・』

『うわっはっはっはっ・・・冗談であるぞよ、冗談。わかっておる。前打ちというからには、鉄砲を前方に向かって撃つのであるな。このように竿を脇に抱え、この火縄に火をこうしてふぅーふぅーと・・・』

『お奉行様・・・あまりおもしろくありませんですなぁ・・・』

『ふむ、よいであろう、その方のような下々にはこのような崇高な洒落はわかるまい』

『まぁ、なんでもいいんすけどね、まずは餌をつけませんと・・・』

『ほう、餌であるな、くわぞー、餌をつけぇーい』

『またですかい、へいへい、この際何でもしますよ、あっしぁ・・』

『な、何なのじゃ、その黒いぶつぶつしたものは!』

『これでございますか?からす貝の稚貝でございます』

『くわぞー、その方、奉行が釣りを知らないからといって、馬鹿にしているのではあるまいな?そのようなもので魚が、ましてや鯛と名の付く魚が釣れるわけないではないか!「えびで鯛を釣る」といった諺があるのをしっておろう。どこの世にそのような黒い貝で魚が釣れるというのじゃ!』

『黒鯛はこのからす貝が大好物でやしてね、特にこの稚貝を団子状にして針に刺すと、そりゃもう・・・狂ったように食ってくるんでさぁ・・黒鯛は』

『ほう、そうであるか。では早速食ってもらうとするか、黒鯛めに・・』

『そう、そうでございます。お奉行様。糸を海面に落としましたら、そのまま竿先をゆっくり下げていって下さいまし。で底付近でそのまま待つんでさぁ。まぁ今日はこんだけ濁って荒れてますから、真ん中あたりで止めて待っててもいいんでやんすがね。魚が中ほどまで浮いてきてますんでねぇ。ほぅ、お上手でございますねぇ、お奉行様』

『こんな感じでよいのか?けれども釣れないではないか、くわぞー』

『お奉行様・・・そんな、入れてすぐには・・・』

『く、くわぞー!だ、誰が入れてすぐじゃ!奉行はこう見えても持続力は充分なほうで、昨夜も家内と・・』

『お、お奉行様、誰もそのような事は言っておりませんて。ましてやそのような大きな声で・・・他にも釣り人がいるんでやんすから・・・』

『あいや、すまぬ・・・つい・・  昨夜もそのことで家内にあまりに短いと責めら・・』

『お奉行様、だから誰も聞いてませんて、そのような事・・・』

『おっ、くわぞー、今竿先が「こん」といってひっぱられたであるぞ』

『ほう、で、どうなりやした?その後』

『いや、何の音沙汰もないであるぞ』

『そうでやんすか。そいではちょっくら竿を上げておくんなさい』

『こうか』

『へい、そんで餌を見ておくんなさいましな。』

『ふむ、特に変わった事はない・・ややっ!貝が割れてぐしゃぐしゃになっておるではないか!』

『へい。で、針のちもとの散弾鉄砲玉も同じく見ておくんなさい』

『うーむ、特に変わった事は・・ありゃりゃ、何やら散弾鉄砲玉に丸い跡が何個も付いておるぞ』

『お奉行様、それが黒鯛の歯形でございます。奴ぁ一旦は貝を噛んだんでやんすが、どうもいつもと感じが違うってんで吐き出したんでございましょう』

『くわぞー、その方、奉行のものが硬さが足らないからといって、貝を噛んだだとか、鉛を噛んだとか、あげくそれは吐き出したとか、適当なことを言っているのではあるまいな!要すれば八丈行きの船をこうして手をぱん、ぱん・・・っとっとと、竿が』

『お奉行様、高い竿なんですから、きちんと持ってておくんなさいましな。「ぱんぱん」しても誰も来ませんて・・海なんすから・・・。それと、こんだぁ、硬さがどうのこうのですかい?さっきは時間が短いとかじゃなかったんですかい?』

『うっ、そ、そのような事をいちいちぶり返すではない!』

『へいへい、そうでやんすね、釣りでやんしたね。そんでは餌を付け替え、もういっぺん先ほどと同じように落としてくださいましな。なーに、さっきは針を掛けたわけじゃないんで奴ぁまだそこにいますぜ。また好物の貝が落っこちて来るんじゃないかってね。また竿先に「こん」ってきたら、今度ぁすかさず竿をすっとあげて合わしてくださいましな。あっしはちょっくらあっちのほうで用を足してきますんで』

『ふむ』

・・・・・・・・・

『くっ、くわぞー!!な、何かが、何かが糸の先におるぞっ!!!!!』

『おっ、きやしたね。お奉行様、あせらず、あせらず、そのまま竿をためてくださいまし。糸を出してはいけませんですぜ』

『なっ、何を呑気なこといっておるのじゃ!どんどん下に突っ込むではないか!このままでは“こんぺいとうじょうしょうはせっかいぐん”に入っていってしまうではないか!!!!』

『でぇーじょーぶっすよ、お奉行様。竿は充分硬いんすから、そのまま、そのまま』

『く、くわぞー!その方、このような状況においてまだそのような事を申すか!奉行の竿は決して硬くはない。持続時間も短い!そのようなたわけた事をいっておらず、何とかこの糸の先にいる何者かを何とかする術を奉行に教えぬか!!!!』

『お奉行様の“竿”が硬いんだか、硬くないんだかそれは知りやせんが、今お奉行様の握っている竿は硬いんですからそのまま竿をしっかり握って耐えておくんさい。そうすりゃ、“こんぺいとうじょうしょうはせっかいぐん”に潜られることはありやせんから・・・』

『ああぁ・・・も、潜られるううう・・・こんぺいとうじょうしょうは・・ええいっ!だれじゃこのような長い名を付けたのは!“てとら” じゃ、“てとら”!  あぁー“てとら”に、“てとら”にぃぃぃ・・・』

『お奉行様、もう、じきでございますよ。そーら、今ぎらっとしたものが見えましたね。』

『おおぉ、少し力が弱まったぞ!くわぞー、どうするのじゃ、この先』

『へい、そのままもう少しだけおまちくださいまし。但し、油断しないで下さいましよ、お奉行様。最後にもう一回突っ込みますから、奴ぁ・・そのまま、そのまま、今玉網に入れやすからね、あいよっと!』



こうしてお奉行様にとっての初めての黒鯛は、大騒ぎのうちに無事玉網に納まったようでございます。
この後、お奉行様はすっかり調子付き、次々と黒鯛を掛けていったのでございます。




『お奉行様、そろそろお時間かと・・・』

『くわぞー、黒鯛釣りは楽しいのう』

『へい、そりゃ、まぁ(釣りじゃなくって、お裁きの下調べだったんじゃねぇーのかい)』

『それに思いのほか簡単ではないか、黒鯛釣りは。ん、違うか?』

『(・・・おいおい)へい、まぁ条件次第でして・・・』

『時にくわぞー、奉行は今日何匹釣ったのじゃ?』

『へい、お待ちくださいまし、今数えますんで・・ひい、ふう、みい、よう、・・・・7枚でございますな、お奉行様』

『ほう、7尾とな』

『お見事でございます。お奉行様』

『お、そうそう、今日のこの釣果はくれぐれも奉行所には内密にの。よいのくわぞー』

『へっ?どういうこって?』

『奉行が奉行所を抜け出し黒鯛釣りをしていたなどと言うことが知れ渡ったら、それこそ天下の一大事。奉行はその方の密漁状況を調べに来ただけであって、釣りなどしてはおらん、ということでよいな、くわぞー。したがってこの釣果もくわぞー、その方のものだということで落着させようではないか』

『いやいや、お奉行様、そればっかしはご勘弁を・・・あっしはまだ福浦で今年一枚もあげておりやせんし、ましてやこのところ福浦の黒鯛釣り組、特に落とし込み所帯は苦戦してるもんですから、他所で黒鯛を釣ったなどというこになったらえらいことになりますもんで・・・』

『よいではないか、金襴緞子の座布団が手に入るのであろう?』

『いやいや、それはやはり福浦で何枚かあげて、余裕の出た時にするからよいのであって・・・』

『もう遅いわ、くわぞー。奉行は今朝出がけにその福浦の黒鯛釣り組の黒幕である鈴木久之新、それとつるむ廻船問屋まるみ屋の主、さらには福浦以外での黒鯛釣りに異様なほどに目を光らす、何といったかの・・・大物のなんとか・・』

『大物の敦之介さんでございますか?』

『おう、そうであった、その大物の敦之介とやらにも、今日、その方が釣行する事をについて話をしておいたぞよ』

『な、なんてこったい・・・』

『おっ、それからのう、くわぞー、釣果の証拠絵図は奉行所のものが秘密裏に今日のこの釣行に随いて来ておっての、奉行とその方が釣りをしている間に書き写し、鈴木久之新に届けるべく、今速馬を飛ばしているところじゃ。まぁ、その方が家に帰り着くころにはすべて知れ渡っているであろうの・・・』

『・・・・・・・』

『おっ、もうひとつあった、くわぞー。奉行の持続時間と竿の硬さについてはくれぐれも口外せぬようにな。まぁ八丈島には行きたくないであろうから、そのようなことはないであろうと奉行は信ずるがの、うわっはっはっはっ・・・・』

『・・・・・・』(くわぞー心の叫び 「この、ふ○ゃ○ん、 そー○ー奉行が!!!地獄に堕ちろ〜〜〜〜!!」

おしまい



お奉行様から早馬で届けられた証拠絵図



前回の時代劇スペシャルを見逃した方へ

時代劇スペシャル第一話

時代劇スペシャル第二話



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