【ちょっとためになる流体力学 福の神丸 実釣編】
今日は,我が福浦チヌ同好会の落し込み部 まるみさんと共に,
船上からの短竿落し込み釣りに同行させて頂いた.
未明,新木場の船着き場に到着.船長のタムラさんに暖かく迎えられ,
「秘密の仕掛け」が手渡される.
まるみさんのお話によると,この仕掛けには,
大きく分けて三つのコンセプトが含まれているという.
なるほど..見れば見るほど,この仕掛けのもつ意味を実感し,
私は大きくうなずいた.
しかし,ここではその詳細に触れる事は出来ない.
あくまでも,「秘密」だからだ.
が,一つだけ.
この仕掛けに,付け餌の落下スピードを調整する役目がある点についてだけ,
流体力学の観点から若干触れてみたい.
付け餌の落下スピードは,
「針の重さ+付け餌の重さ+ガン玉の重さ」に対し,力学的な抵抗
(付け餌の大きさ(種類),仕掛けの構造,ライン抵抗,操作等を含む)
を加減する事によって調整できる.
物理的には,かかる重さと抵抗に関する運動方程式がたてられ,
力学的に釣り合った状態になると,
等速運動をする,という理屈が成り立つ.
具体的に,簡単な数式を立てて考えてみよう.
(ここでは,簡単のため重力方向の運動(プラス方向)を原則基本としている)
F=ma=Fg−Fb−Fd−Fr
Fg(重力)=mg
Fb(付け餌の浮力)=V・?・g
Fd(付け餌の流体抵抗)=Cd・1/2・?・u^2・S
Fr=仕掛けの構造,ライン抵抗,操作等
m:「針の重さ+付け餌の重さ+ガン玉の重さ」
a:運動方向加速度
g:重力加速度
V:付け餌の体積(付け餌の大きさに相当)
?:海水の密度
Cd:抵抗係数
u:餌の落下スピード
S:付け餌の断面積(付け餌の大きさに相当)
ここで,Fr=ゼロとおき,m=「餌の重さ」のみとしよう.
この場合,付け餌に仕掛けをつけず,自然落下させた場合に相当する.
概して付け餌は海水より比重が大きいと考えれば,
海中に投入直後から浮力抵抗(Fb)を受けつつ,重力による加速度運動を始める.
速度uが増すにつれ,流体抵抗(Fd)が増し,ブレーキがかかる.
最終的には,Fg=Fb+Fdとなり等速運動となる.
この時の速度uは,終速度といわれる.
さて,釣り人は,この餌の自然落下に対し,様々な人為的な力学的抵抗
「仕掛けの構造,ライン抵抗,操作等」(Fr)や
「付け餌の大きさ(種類)」(Fb,Fd),
そして「ガン玉の重さ」(m)
を変える事によって,その落下スピードを加減するわけである.
では,この抵抗をどの程度かけ,自身が望む落下スピードとするか?
上記の様に,餌の落下スピードは仕掛けがついている限り,
餌だけ海中に落した場合の落下スピードとは同じにはならない.
とすれば,
「チヌが反応する(できる)落下スピードがある」
一方で,
「釣り人が,当たりを取れる(取りやすい)落下スピードがある」
と考えられるのではないだろうか.
船長のタムラさんは,言わずと知れたチヌ釣りの名手であり,
もちろんこの釣り場を熟知している.
そして,この日も状況にマッチした落下スピードがあったようだ.
「タムラ理論」による落下スピードとは何か?
もちろん,上記‘Fr’の与え方にある.
その本質は,
Fr(t)=X(t)・?・g
ここで,tは時間.X(t)は不連続な増加関数であり,
落下スピードを非線形性を持って変化させる「秘密」が隠されている.
この不連続関数X(t)こそ,「タムラ理論」による
名人技を完成させていると言っても過言ではない.
船長の適切なアドバイスを頂き,未熟な私でもチヌを仕留める事が出来た.
また,福の神丸では,サイズの小さいチヌのタグ&リリースを励行している.
東京湾を,釣りを,チヌを愛する心,そして,何よりも人間愛にあふれる船長と
まるみさんのいつも通りのさわやかな笑顔に囲まれ,
この日一日幸せな気分に浸る事が出来た事に感謝の念が絶えない.
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