懺悔の小部屋〜12号室〜  

罪深い仔羊達よ!悔い改めよ!〜


ウキフカセ部所属・管理人の懺悔

釣行日 2002年7月6日(土)〜7月7日(日)
時間 6日 4:00〜16:00
7日 3:00〜12:00
場所 宮城県 田代島
釣法 ウキフカセ釣り
釣果 クロダイ3尾(37cm 35cm 46cm)



連続時代劇スペシャル小説

悪代官みちのく珍道中


【いざ!みちのくへ」!】

 目に余る悪行と彼を取り巻く数多の黒い噂で、すっかりその名を各地に轟かせてしまった福浦村代官・鈴木久之新・・・
今回はこの悪名高いお代官様がお話の主人公でございます。

 何でも今年の福浦村での黒鯛漁は大変な不漁が続いてるそうでございまして、この村の黒鯛漁を影で操っているという噂のこのお代官様、自分の懐に転がり込んでくる上がりが極端に少なくなっているのに業を煮やした様で、なんとか新しい金儲けの方法はないものかと、全国あちこちの漁場に目を光らせていたそうでこざいます。

 そんな最中、お代官様の命を受けて全国の漁場を探っていた「かわら版屋の誠吉」が、耳寄りな情報を持って帰って参りました。

 どうやら陸奥は伊達藩ご領地内の某所で結構な数の黒鯛が上がっている様子で、その利権に絡もうと、あちこちの裏組織がこの甘い蜜に蟻のように群がってきているそうでございます。
かわら版屋の誠吉が懇意にしているという「浮き工房組」もその一味で、しかもここには大そうな黒鯛釣り名人が助っ人として加わっているとの事、
「あっしが話をつけますんで、お代官様、ここは一番、浮き工房組とつるんでみては如何で御座いましょうか・・・。」
喉から手が出るほど欲しかった情報だけに、誠吉の話に一瞬腰の浮きかけたお代官様でございましたが、
「う〜む、しかしみちのくはちと遠すぎるのう・・・。ここの所の不漁で今代官所には銭がないのじゃ。路銀がなくてはみちのくまでとても行けぬわ。」
と、また腕を組んで思案してしまいました。

 すると誠吉、
「それならあっしに良い考えがございます。お代官様、あっしの下っ端に博打に滅法強い<がらっぱち>ってのがおりやしてね、こいつにちょいとばかり資金を出して頂けれりゃあ、アッという間にみちのくまでの路銀くらい稼いでくれまさぁ。如何でございましょう・・・。」

 暫く腕を組んで考え込んでいたお代官様でしたが、結局誠吉のこの提案が最良の妙案と判断し、がらっぱちに一縷の望みを託す事を決心いたしました。

 ところがお代官様にはもう一つ悩みの種がありました。
実は出立日の翌日が奥方様の誕生日だったのでございます。
その事を誠吉に話すと、
「よう解りました。奥方様の方はあっしが何とか致しましょう!」
と言って、お代官様のみちのく出立の段取りを全てつけてくれたそうでございます。

 しかし物事というのはそう簡単には転がらないものでございます。
お代官様が勘定方の目を盗んで工面した博打の資金でしたが、これを受け取った誠吉の手下・がらっぱち、事もあろうかこの路銀を持ってその夜のうちに福浦村から逃げ出してしまったのでございます。

 この話を聞いたお代官様、当然烈火の如くお怒りになられましたが、みちのくへの出立も迫っており、
「ここは何が何でもみちのくで荒稼ぎさせてもらわねば!」
と気持ちを切り替える事にしたそうでございます。
 普段は決してご自分のお金を出そうとしないお代官様でしたが、ここは渋々懐の金を出す事にし、鈴木家の金蔵から奥方様には内緒で五万両程抜き取り、みちのくへの路銀にあてたそうでございます。

 ただ、いくら「美味しい話」と言っても、そんな悪行に代官自ら表に立つ訳にもいかず、ましてやみちのく迄の道中、とても物騒で一人では出立できません。

 そこでお代官様、何人か屈強な供の者を連れて行く事に致しました。
 いろいろ思案した挙句お代官様がご指名されたのは、「江戸の殺し屋・かず」「盗賊・風小僧」「渡世人・赤目の猿」「くのいち・陽炎おけい」といった、4人のお尋ね者の連中でございました。
 『お尋ね者』と言っても、そこは『蛇の道は蛇』・・・
お代官様はちゃ〜んとこの者達の居場所は知っており、連絡がいつでも取れる様にしてあったのでございます。
 ただこの者ども、いくら全国を逃げ回っているとはいえ、みちのくの地理にはいささか不案内です。
幸いな事に、みちのく方面には、伊達藩ご領地内に潜伏しているという伝説の大親分、「年無しの並平」がいるではありませんか!
早速年無しの並平に連絡を取り、現地での道案内を依頼したそうでございます。

 こうして準備の整った一行は、夜陰に紛れて福浦村を二つの早籠で出立、一路みちのくへ向かったのでありました。


【遭難】

 みちのくは遠く、早籠を飛ばしても一晩かかるそうでございます。
途中石巻の宿にて年無しの並平の出迎えを受け、彼の案内のもと、夜道を牡鹿半島は給分浜へ急ぎます。
夜陰に紛れて出立したお代官様一行も、給分浜に着く頃には夜も白々と明けようとしておりました。
 お代官様は慣れぬ長旅に数日来の睡眠不足が重なり、少しばかり体調を崩されたようで、やっとの思いで給分浜に辿り着いた頃にはすっかり気分が悪くなっておられたそうでございます。

 「皆のもの、今日は本当に出船するのか?代官は今日は寝ていようかと思うのだが・・・」
と弱気を申していたお代官様も、海に着き、浮き工房組の者達の武者姿を見るにつけ気持ちを新たにされたようで、大急ぎでご自身も船に乗り込む準備を始められました。

 給分浜から目指す田代島までは船でおよそ一刻(約15分)ほどかかります。
ここ数日来みちのく地方は濃い霧が発生する事が多いそうで、この日も給分浜の港は濃霧に覆われておりました。
お代官様一行は浮き工房組の者たちと一緒にそそくさと船に乗り込みましたが、横に付いていた小さな艀の船頭が、
「早く行きてぇもんはこっちさ乗れ!」
と叫んでおります。
どうやら大きな船では田代島の磯場に付けられない為、この艀で船から磯まで釣り人を渡していくようでございます。
すぐに浮き工房組の頭が
「福浦村のお代官様ご一行を先に渡してやっておくんなせぇ!」
と気を利かせて船頭に申し入れしてくれたそうでございます。
 こうしてお代官様ご一行は小さな艀に乗り込み、一路田代島に向けて、濃い霧のむせぶ給分浜の港を出港いたしました。

 目指す田代島は霧の向こう側でございます。
辺りは全く視界がきかない状態ですが、船頭はお構い無しに船を滑らせます。
一刻ほど経ったでしょうか、まだ島影は見えません。
それからまた一刻ほど経ちましたが、島影は一向に見えてきません。
船上にいる誰もが「おかしいな」と思った瞬間、船頭が
「参ったなぁ・・・」
と一言ボツリ。
どうやらこの船頭、霧の中で方向を見失ってしまったようです。
ただでさえ体調の悪いお代官様はこの一言ですっかり弱気になってしまいました。
「これ船頭、何とかせぬか!」
このお代官様、相当小心者と見えまして、かなりうろたえていらっしゃいます。
乗り合わせている同行者は、流石に肝の据わったお尋ね者ばかり、皆余裕の表情で煙草をふかしております。
やがて年無しの並平がドスの効いた声で、
「おい船頭さんよ、このお方は福浦村のお代官様だ。このお方にもしもの事があったら、お前さん、只じゃぁすまねぇぜ。」
そうは言っても羅針盤一つ装備していない小さな艀ではどうにもならず、ただ船頭の勘のみであちらへ行ったりこちらへ行ったり・・・。
船は完全に漂流状態になってしまったそうでございます。
「せめて羅針盤さえあれば・・・」
と、お代官様がため息交じりで一言漏らすと、江戸の殺し屋・かずが携帯用の小さな羅針盤を懐から取り出して、
「船頭さん、これを使いな!」
と船頭の近くにいた赤目の猿に投げました。
ところが、狙いが外れて大切な羅針盤が海に落ちてしまい、お代官様、これを見てガックリ。
「あ〜、こんな所で遭難してしまうとは・・・。やはり福浦村で黒鯛漁を続けておれば良かった・・・」
そう思ったそうでございます。

 幸いにして風小僧の機転で羅針盤が沈む前になんとか回収でき、これを使った船頭、予定より大幅に遅れてなんとか田代島までたどり着く事が出来ました。
島影が見えた時のお代官様の表情と言ったら・・・。
それこそ地獄で仏という顔をしていたそうでございます。


【田代島】

 島に着くと6人同時に乗れる磯が無い為、人数を分けて黒鯛が狙えそうな磯に順番に下ろしていきます。
まず最初に着いた磯に船頭が、
「ここは二人降りてくんろ」
と言うと真っ先に江戸の殺し屋が
「それなら、まずはあっしが!」
と言って立ち上がり、続いて年無しの並平が
「そんじゃあっしも!」
と言って二人で磯に下りていきました。
流石手の早い事で有名な殺し屋かず、巷では「鉄砲玉」と恐れられているそうでございます。

 次に着いた磯は比較的大きな磯で、ここへは同時に4人降りられるとの事。
残ったお代官様を初め、風小僧、赤目の猿、陽炎おけいが全員一緒に磯に渡る事が出来たそうでございます。

 「代官は磯に着いたらまず寝るぞ!」
と言っていたお代官様も、磯に上がるととりあえず仕度を始められ、真っ青な顔で釣りの準備をされておりました。
全く、このお代官様、子供のように現金なお方でございます。
とりあえず4人の釣り座を決め、お代官様は海に向かって一番左に陣取り、その向こう側の磯との間を攻める事に致しました。
準備が整った者から順番に竿を出し、少々気の乗らぬお代官様は最後になってようやく竿を出されたようです。

 間もなくお代官様の隣にいた風小僧の竿が曲がり、「海たなご」という魚が上がりました。
その後も「めばる」や「あいなめ」といった魚が、風小僧、赤目、おけいに次々にかかってくるというのに、お代官様の竿は一向に曲がってくれないようでございます。
 少々辛そうなお代官様に、風小僧が気を利かせて
「お代官様、えさ取りが多いようですぜ」
と声をかけましたが、お代官様、相当気持ちが荒れおられたようで、
「そんな事解っておるわ!じゃが代官の竿のエサはそのままじゃ!」
と逆に怒鳴られてしまう始末。
「こりゃとんだトバッチリだ!こいつぁ静かにしてた方が良さそうだ・・・。」
と、風小僧はそれ以来お代官様には声をかけないようにしたそうでございます。

 気分も優れず、ぼんやりと竿を出していたお代官様の浮きが、暫くするとにわかに沈みました。
お代官様、これを見て竿を立てるといきなり魚が下に突っ込みます。
「チヌじゃ〜!」
と叫びそうになった瞬間、お代官様の持っている竿がふわ〜っと軽くなりました。
どうやら針結び透け糸がプツリと切れたようでございます。
お代官様、更に機嫌が悪くなりまして、もう周りにいるお尋ね者達ですら見て見ぬ振りをしていたそうでございます。
「触らぬ神に祟りなし!くわばらくわばら・・・」

 お代官様、もう自分には釣れはしまいと勝手に思い込んでしまいましたが、作ってしまった撒き餌は大量に残っており、ましてや磯から上がるには迎えの船を待たねばなりません。
仕方なく釣りを続けておりましたが、辺りを覆っている霧の如く、お代官様の気分は一向に晴れません。

 暫くすると再びお代官様の竿が曲がりました。
今度は慎重に魚を浮かせると、上がってきたのは紛れもなく黒鯛!
「わっはっはっはっは〜!チヌじゃチヌじゃ〜!」
お代官様、一気に機嫌がよくなりまして、このチヌを一発で玉網に収めます。
計測すると37万両の黒鯛!
お代官様の顔色は急によくなったそうで、誠にもってこのお代官様の気分屋の性格がにじみ出ていたようでございます。

 この後35万両の黒鯛を追加したお代官様、この日は2枚の黒鯛を持って帰りの船に乗り込みます。
来た時とは別人のような満面の笑顔で・・・。
 ちなみにこの日は、後からお代官様達の隣の磯に移って来た年無しの並平が、35万両と32万両の2枚の黒鯛をあげ、福浦組のこの日の釣果は4枚となったそうでございます。

 引き上げてきたお代官様ご一行は、この日地元の旅籠に泊まり、浮き工房組の面々と宴を持ったそうでございます。
仕事を残してきた年無しの並平は一旦石巻の宿に戻って行きました。

翌日の磯渡しは1日目より一時ほど早くなり、丑の刻(午前2時)には起きなければなりません。
一睡もせずにみちのくまで来た一行は、宴席もそこそこに布団にもぐりこんだそうでございます。

 2日目、この日は午前中で釣りが終了する為、まだ暗いうちに給分浜の港を船が出港します。
昨日釣果のなかった者優先で磯渡しが行われます。
お代官様は前日2枚の黒鯛をあげておきながら、一行と別れるのが嫌で、浮き工房組の頭に我侭を言い、一緒に渡してもらう事になりました。
この日も朝から霧が立ち込めておりますが、昨日ほどの濃さではありません。

 田代島に着いた船は順番に釣り人を磯に渡していきます。
今日は殺し屋かずと赤目の猿、それに陽炎おけいが一緒の磯に、
風小僧は一人で、
そしてお代官様はかわら版屋の誠吉の代理で来た靖蔵という男と共に磯に入る事になりました。

 こう見えても意外に気を遣う性格のお代官様ですが、この日も前日釣果のなかった靖蔵を気遣い、
「その方、昨日は坊主だったであろう。好きな場所で竿を出すが良い!」
といつもは見せない優しさで言葉をかけたそうでございます。
やはり2枚も釣ると余裕が出てくるのでございましょうか。

 靖蔵が、
「そんじゃ遠慮なく」
と自分の釣り座を決め、お代官様は空いた場所にゆっくりと入って釣りを始められたようです。
すると釣りを始めてまだ三投目だというのに、お代官様の浮きがジワリと沈んでいきます。
「すわ!又してもチヌか!」
心の中でそう叫びながら竿を操っておりますが、これがどうしてなかなか引く魚でして、黒鯛と確信したお代官様、この魚とのやり取りを存分に楽しんでおられます。
「いやはや、楽しい釣りじゃ〜!」
充分に黒鯛釣りを楽しまれたお代官様は、ようやくこの1枚を玉網に収め、この日も前日に続いて黒鯛を手中にする事が出来たそうでございます。
しかも今日の黒鯛は大物、46万両!
靖蔵が
「お代官様、こりゃぁ今日の一番取れるかも知れませんぜ!」
と声をかけました。
実は今回の釣りではその日釣った一番大きな魚に懸賞金がかかっているのでございます。
お代官様、これを聞いてふと我に返りました。
「釣果のなかった者たちに混ぜてもらい、昨日2枚もあげた自分がまたしても大物をあげてしまったとなっては、周りの者どもに我侭な代官だと思われる・・・。」
そう思ったお代官様は、いかにも優しそうな声で
「靖蔵、その方昨日坊主だったであろう。代官と場所を変えるか?」
と声をかけてあげたそうでございます。
お代官様のお言葉に甘えた靖蔵でしたが、その後見事に40万両の黒鯛をあげて、
「お代官様、これでみちのくまで来た甲斐がありやした。」
と喜んでいたそうでございます。


【福浦組ここにあり!】

 午の刻に迎えの船が来て、お代官様は前日にも増した上機嫌で給分浜の港に帰って参りました。
随行の者達に聞くと、この日は赤目の猿も一枚あげたとの事でございました。
 港では当日の黒鯛の検量が行われておりますが、一仕事終えて再び給分浜の港に舞い戻った年無しの並平が、
「お代官様、お代官様の釣った黒鯛がどうやら一番らしいですぜ!」
と、そっと耳打ちをしてくれました。
これを聞いたお代官様、更に機嫌が良くなりまして、
「並平、ここは良い所じゃな。その方まだ暫く石巻に身を隠しておるのであろう?代官はまた忍びで来る故、その方また案内致せよ。」
と、次回釣行までしっかり企んでおられるようでございました。

 名だたる浮き工房組の名手を含めた総勢32人のつわもの達を抑え、堂々の二日目一番を勝ち取ったお代官様、
「たった五万両の投資でここまで儲けさせてくれるとは・・・。」
と、霧も消え見事な青空の広がった給分浜の空のような上機嫌で福浦に帰っていったそうでございます。

 福浦組ここにあり!
みちのくの地でなんとかその面目を保った福浦村代官・鈴木久之新の悪巧みはまだまだ続きそうでございます。


おわり


注)この物語は事実を元に再構成したフィクションです。登場人物及び団体は全て架空のもの・・・かな?


お代官様1日目の釣果



お代官様2日目の釣果



お代官様ご一行の図





トップページへ          2002釣果データへ





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送