海の男の祭り



私の故郷である沼津市の先端に「大瀬崎」という名勝があります。駿河湾に突き出た岬から遥か北に霊峰富士を望み、その南には伊豆半島の山々が連なっています。私が子供の頃、「日本一水質の綺麗な海」として紹介された事もある自然豊かで風光明媚な土地ですが、最近ではダイビングスポットとしてその名を全国に知られているようです。
岬の先端には、遠く富士の雪解け水が地下水となって湧き出しているという池があり、海に囲まれながら真水であるが故に「神池」と呼ばれ、この神池の周りには国の天然記念物に指定されている「びゃくしん」という大木が群生し、岬全体が神秘的な雰囲気に包まれています。その為か、古くから地元の人達に「おせさん」と呼ばれ、海の神様としての信仰を集めてきました。

毎年4月4日、この大瀬神社の大祭が行なわれます。沼津沿岸の漁師達が、その年の大漁と海の安全を祈願する伝統行事で、各地の漁船が一斉にこの大瀬崎を目指して駿河湾を渡って来ます。雄大な富士を背に、大漁旗をなびかせた沢山の漁船が駿河湾を疾走する姿は、まさに「海の男の祭り」、一見の価値のあるとても見ごたえのある光景です。私の実家も4代続いている漁師なので、子供の頃は毎年実家の船に乗ってこの祭りに参加していました。

ここ数年は年度始めの忙しさにかまけてこの祭りに足を運んだ事もなかったのですが、気がつけば下の娘はこの祭りを一度も見た事がないと言うではありませんか!今年のカレンダーでは新学期が7日からという事もあり、今年は思い切って休暇を取り、家族を連れて久しぶりに実家の船に乗せてもらう事にしました。

午前7時半、港に着くと既に関係者が集まっており、大漁旗で飾られた大小の漁船が出発を待っています。地元の青年団とその招待客を乗せる「招待船」というのが毎年決められるのですが、今年は私の実家の船がその招待船の一隻になっていました。


出船前(右側の小さい方が実家の船)

午前8時、関係者を乗せた2隻の船が静かに出港します。何故か好天に恵まれる事の少ないこのお祭りですが、今年は見事な青空が広がり、久しぶりに富士を眺めながらの船旅となりました。港を出ると、浜の前を3周回ってから大瀬崎を目指します。出港と同時に青年団員達が船首で踊り始め、祭りに景気をつけます。


青年団を乗せた船


まずは浜の前を3周回って・・・

実家の船の母港である「静浦港」から大瀬崎までは大体30分程の行程です。港を出ると、地元の漁師達が「ならい」と呼ぶ山から吹き付ける東風が強く、非常に寒い船旅になりました。この風の時は海はそれほど荒れないのですが・・・。


駿河湾を疾走する僚船


霊峰富士を背に!

途中、ブリッジで操縦していた兄が右手の海を指差して何か大声で叫んでいます。指差す方向を見ると、なんと、イルカの群れが泳いでいるではありませんか!何度も大瀬祭りには来ていますが、こんなのを見たのは初めての事でした。

大瀬崎に着くと既に何艘もの船が係留されていましたが、心なしか以前より船の数が少ないように感じます。聞くとここ数年でかなり漁師の数が減ってしまったとの事、そう言えば来る途中もあまり他の船を見かけませんでした。
船が着岸すると、乗っていた青年団員が一斉に海に飛び込みます。春とはいえ水温はかなり冷たい筈なのですが・・・。冷たい海の中を、神社に奉納する米俵を担いで岸まで泳ぎ、すぐに神社に向って駈けていきます。若い者は流石というか、とても軟弱者の私には真似のできない事です・・・。


到着した船


着岸前の青年団員


海に飛び込む青年団員達


米俵を手に岸まで泳ぎ着いた青年団員

私達も船を降り神社に参拝、福チヌ・大黒湯沸し隊・HB@Sの皆様の大漁を祈願して、神池を回ってから船に戻りました。船に戻ると、既に船上は宴会状態、魚屋を営む叔父が船上で捌いた刺身を肴に、皆この祭りを大いに楽しんでいるようです。その間にも大瀬崎の港には大漁旗をなびかせた大小の漁船が出入りし、「海の男の祭り」も大いに盛り上がってきます。


離着岸する漁船

午前10時過ぎ、「ならい」が更に強く吹き始めた為、予定より30分ほど早く大瀬崎の港を出港、母港の静浦港目指して帰途に着きました。当然、帰りの船の中でも宴会は続きます。
帰りは向かい風の為か、行きよりもゆっくりと前進、浜の前の海を1周回って、午前11時に無事静浦港へ帰って来ました。

数えてみると9年振りに来る大瀬祭り、娘達は貴重な体験に大いに喜んでいたようですが、私はこの9年の間に船の数が激減してしまった事にとても大きな寂しさを感じました。過酷な労働に後継者不足、そして何よりも漁獲量の激減・・・。これも時代の流れというものなのでしょうか。こういう伝統行事はいつまでもその火を絶やさず続けていって欲しいと思います。


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