「ふたつの目標と仲間」


今年の春先、まだシーズンに入る前。ふたつの目標があった。

ひとつは、福チヌ皆さんの歴史をを紐解き、広い福浦のあちらこちらに点在する実績ポイントに挑戦すること。

もうひとつは・・・。


今回は久しぶりの土曜日釣行。昼食後に見た降雨レーダーによれば、静岡県まで雨雲が来ている。あと３〜４時間すれば神奈川にも達するだろう。ただ幸いにも、その雨雲は南北に細長い降雨域を持ち、ざっと降ってもすぐに止むと予想する。


19時30分。岸壁やテトラがしっとり黒く光った福浦に到着。思いのほか風も波も無く、まるで湖のような水面。何とも言えない雰囲気がある。

連絡を取り合っていたモンキーさんが既にテトラで竿を出していたので、こっそりと右斜め後ろからご挨拶。潮はゆったりと左から右に動いていると聞き、早速準備に取り掛かる。


20時15分。潮下に入るのはエチケットとしてどうかと思いながらも、残念ながら左方向には空きも少なく、常に潮の向きも変わるだろうと考え、モンキーさんの右15メートル程の距離をとり、釣り座を決める。


冒頭の理由から、今シーズンはあまり勝手の分からないポイントを中心に竿を出している関係で、沈み根や隠れテトラに手こずり、ハリス切れで何度も本命を逃している。

ナミ部長から教わった釣り座の取り方をはじめて試してみるが、とても按配が良い。


まず一投。既に流れは左に変わっている。ゆっくりと言うよりもトロトロ、と表現した方が似合う程度の流れ。シュッとウキのトップが入り、あわせると20センチ程のメバル。

その後も何かしらの反応は続き、サカナの活性も良さそう。


ド干潮まで約一時間半。2年前に一度しか上げたことのないこの時間帯は、如何せんデータが少なく自信は無いが、とにかくコマセを入れ続ける。


20時40分。相変わらず右から左へゆっくり動く三色電気ウキが、正面からやや左にある隠れ根付近に差し掛かったその時。ウキトップの下から順番に、きいろ。みどり。あか。まるでスローモーションのように黒い海面に吸い込まれていく。自分の中では理想的なアタリに、ゴクンと喉を鳴らして一呼吸。渾身の合わせを入れると、竿が半円を描いて止まる。と、次の瞬間にはズシッとした重量感と共に右へ動き出す。何としても沖に誘導すべく試みるが、相手はそんな思うようにあしらわせてくれない。その後向きを変え下へ下へと突っ込む。決してラインは出せないが、そうこうしているうちに竿の角度が無くなりのされてしまう。きつめに設定したドラグでも対応しきれなくなり、一か八かレバーを使い竿の角度だけを立て直す。すると相手は目論み通りに沖へ走り出すが、そのスピードが尋常ではなく、思わず腰を落として竿のバネで耐える。

幾度も、海面まで上がっては反転を繰り返す。今まで良型を掛けた時にも、ここまで時間を要した事があっただろうか。実際は３分程度だと思うが、とにかくこのやり取りはとても長く感じる。

ようやく竿先の黒い海面に白い腹が浮かぶ。が、その白さは妙に大きい。無事にタモ入れを完了した時、何とも言えない安堵感とそのタモの重さに驚く。アシストしてくれたモンキーさんと共に計測すると、ジャスト50センチ。



夢にまで見た年無し。じわっと嬉しさがこみ上げてくる。しかも隣には、それを一緒に喜んでくれる仲間がいる幸せな時間。

そのすぐ後、用事の途中でわざわざ寄ってくれたひささんと、三人で四方山ばなしに花が咲き、気が付けば22時。もうすぐ干潮の底になる時間だ。もう一度竿を出す。


22時30分。潮は止まりながらも、かすかに先程と同じ様に左へ動いている。数投前からモゾモゾとしたアタリが続き、そっとラインを張って誘ってみる。すると、それが奏功したのか気持ちよくウキが入り、合わせを入れる。一枚目と違って、鋭く突っ込むというよりは重量を感じさせるそのやり取り。これも無事タモ入れの後、2人で計測すると50センチ。



一晩に年無しが２枚だなんて、自分には全くの出来過ぎ。

のはずが日付変わって・・・。


24時05分。三度、気持ちの良いやり取りを味わう。水面に上がった時、激しくバシャバシャと音をたてていた相手は35センチ。もしも周りに人が居たとすれば、ポカンと不思議そうな顔をした2人を見ることが出来たに違いない。



26時過ぎ。後片付けも完了し、モンキーさんと暫しお話をしてから福浦での再会を約して家路につく。


期せずして今夜、ふたつ目の目標を達成する事が出来た。でもきっと、一人で釣りをしていたらここまで嬉しかっただろうか。福チヌは、やはり自分にとって大切な居場所と仲間なんだ、と思いを新たにした。